徐挺耀 Tim Shyu 中文EN日本語

人を惑わすミーム株の世界

新型コロナウイルスの流行は、おそらく第二次世界大戦後もっとも人間の行動に大きな影響を与えた出来事だ。人々の行動を変え、いくつもの興味深い小さなトレンドを生み出した。リモートワーク、ビデオ会議、遠隔医療などはすっかりお馴染みになったが、誰もが知っていることからは、もう大した儲けは出ない。例えばリモートワークの雄ズーム(Zoom)は、2020年以前は株価が70ドルを超えたことすらなかった。パンデミック期にビデオ会議の将来性が誰の目にも明らかになると、株価は一時559ドルまで急騰した。しかし「誰もが知っている」ということは、大手企業も皆知っているということであり、結果としてあらゆる大手がこの市場に群がった。ズームの株価は今やほぼパンデミック前の水準まで戻っている。誰もが知っていることから儲けるのは、そう簡単ではない。

だから私が面白いと思うのは、パンデミックによって生まれ、そのまま定着した小さなトレンドの方だ。あまり知られていない、あるいは知られていても関心を持たれていないこうした事柄の方が、案外「金の含有量」が高かったりする。

パンデミックが生んだ興味深いトレンドの一つが、ミーム株(meme stocks)だ。「ミーム」とはネット上で拡散する、遊び心のある二次創作コンテンツの総称で、もっとも一般的な形式がいわゆる「ネタ画像」だ。こうしたミームはネット上で爆発的に拡散し、世界的なサブカルチャーとして定着した。フェイスブックやツイッターをよく使う人なら、ほぼ毎日面白いネタ画像を目にしているはずだ。

そしてミーム株とは、ネット掲示板で話題になる特定タイプの銘柄を指す総称だ。ミーム株の多くは財務体質が脆弱で先行き不安な企業で、しかも「分かりやすい」ことが条件になる。そうでなければネタ画像にして皆に理解してもらうことすらできないからだ。有名な例はゲームストップ(GME)、映画館チェーンのAMC、最近では家庭用品チェーンのベッド・バス・アンド・ビヨンドなどが挙げられる。

誰もが知っていることに、大した「金」はない

ミーム株は一般的な意味での「良い銘柄」であることは少ない。多くは空売りに叩かれ、株価は低迷し、保有者は長期間にわたって売り時を逃し続け、結局塩漬けにするしかない。買いを勧めるネットのインフルエンサーたちが持ち出す論拠は、たいてい実績ではなく「将来性」であり、それはさながら「怪我をした投手が手術を受ければ、球速が時速160キロを超える」といった荒唐無稽な理屈に近い。加えてミーム株は値付けが過大で値動きも激しく、要するにファンダメンタルズというより一種のゲームに近い。2020年1月のゲームストップ株が、史上初のミーム株だったとされている。

個人投資家がいい加減な情報を鵜呑みにして売買すること自体は今に始まった話ではない。それがわざわざ「ミーム株」という一つの類型として名付けられ、注目されるようになったのは、2つの技術的条件が揃ったからだ。一つはSNSの発達、もう一つは安価で使いやすいプラットフォームの登場である。パンデミック下で退屈を持て余したアメリカ人が急増し、台湾のPTTに似た半匿名掲示板レディット(Reddit)で雑談する人々が増えていった。

パンデミック期に増大した市場の流動性は株価全体を押し上げ、多くの投資初心者を株式市場に呼び込んだ。多くのアメリカの若者は「コロナ給付金があっても大して人生は変わらない」と考え、その資金を株式市場に「遊び」として投じた。彼らはレディットの「ウォールストリートベッツ(WallStreetBets)」板で、ゲームの攻略掲示板を見るような感覚で株の議論を眺めるようになり、こうして「ゲーム感覚」の個人投資家の一大集団が生まれた。

ネット民が話題にしていることを、ファンドマネージャーも知りたがる

これだけの薪が揃っても、火をつける何かが必要だ。その火種となったのが、ロビンフッド(Robinhood)のような手数料無料の取引アプリだった。オンライン証券サービス自体は以前から数多く存在したが、インターフェースは複雑で参入障壁も高かった。近年登場したロビンフッドのようなユニコーン取引アプリは、その敷居をあまりに低くしすぎたため、マサチューセッツ州から「投資初心者を過大なリスクにさらしている」として提訴される事態にまでなった。その敷居の低さがどれほどのものかというと、あるアメリカの大学生が複雑なオプション取引を行った際、決済処理の仕組みの複雑さから一時的に73万ドルのマイナス残高が表示され、状況を理解できないまま自ら命を絶ってしまうという痛ましい事件まで起きている。

「使いやすすぎることがリスクになる」など、他業界のプロダクトマネージャーなら想像すらしないだろう。投資初心者にとって、ロビンフッドの親切なインターフェースと手数料無料という条件は、面白くて儲かるかもしれないオンラインゲームそのものだった。

こうして、レディットのウォールストリートベッツにいるネット民の数と、ロビンフッドで取引口座を開いた個人投資家の数——一見無関係な2つの集団——がそれぞれ一定の規模に達したところに、ちょうどインフルエンサーたちがゲームストップ株の話題で盛り上がり、同時に空売り機関がゲームストップ株を積極的に空売りしていたことで、構造的な裁定機会が生まれた。こうして完璧な嵐が形成されたのだ。

この一件についてはすでに多くの報道がなされ、記憶に新しい方も多いと思うので、詳細は割愛する。簡単に言えば、アメリカのミレニアル世代の若者たちが給付金を元手に口座を開設し、掲示板で結束し、一斉にゲームストップ株へなだれ込んで株価をつり上げ、構造的な裁定機会を突いて空売り機関にショートスクイーズを強い、成績優秀だった空売りファンドを次々と打ち崩した。機関投資家は当初、こうしたショートスクイーズという「システミックリスク」が現実に起きるとは信じていなかった。ネット民が遠隔で協調し、価値の乏しい銘柄を一斉に高値までつり上げるなど、実現するにはあまりにハードルが高いと思われていたからだ。しかし前述の社会的条件が揃っていたことで、それは本当に起きてしまい、結果として生じた損失は50億ドルを優に超えた。

「素人の乱れ打ちがベテランを打ち倒す」——ゲームストップ事件はそんな一里塚となり、ウォールストリートはミーム株の存在を正式に認めることになった。パンデミック後の現在、ミーム株はすでに一つの正式な銘柄カテゴリーとして定着している。個人投資家は非合理的だと分かっていながらも、一縷の望みにかけて、こうした財務体質の弱いミーム株にあえて投資する人が後を絶たない。最近では1〜2四半期ごとに、また新たなミーム株が突如としてつり上げられては暴落する、ということが繰り返されている。

そしてミーム株が一つのカテゴリーとして定着して以降、一部のファンドは空売りを行うにあたり、レディット上のネット民の感情を監視するソーシャルリスニングシステムまで導入し始めている。本当にファンドマネージャーというのも大変な商売だ。誰も知らない、あるいは知っていても気に留めないが、実は儲かるかもしれない——そうした事柄はたいてい、技術的な手段と社会的条件がちょうど交わる地点で生まれる小さなトレンドの中に潜んでいる。ミーム株は、その好例だと言えるだろう。

Tim Shyu ニュースレター

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